千年後も変わらない里山のある暮らし。持続可能な未来を考える

【心地よい「里山サウナ」で森林再生を目指す】

東濃ヒノキを使ったオール国産のバレルサウナ

Posted: 2023.01.24

COLUMN

岐阜県の中南部にある加茂郡の東部に位置し、美しい川に恵まれている白川町。総面積の88%が森林で、東濃ヒノキや冷涼な気候を活かした白川茶、夏秋トマトの生産も有名です。そんな豊かな自然の恩恵を受けている白川町黒川では、2022年の1月に「里山サウナ」がスタートしました。東濃ヒノキで製作したバレルサウナ(*1)内を薪ストーブで温め、季節のハーブや白川茶の三番茶をロウリュして汗をたっぷりと流す…。サウナの扉を開けた瞬間に心地よい空気が身体を冷やし、四季折々の山の風景に癒される。身体だけでなく心もととのう「里山サウナ」は、有機農家がプロデュースする特別なもの。森の整備と再生というこの土地の課題解決にも一役買う「里山サウナ」について、伊藤和徳さんにお話を伺いました。

*1 バレルサウナとは
サウナ発祥地であるフィンランドに古くから伝わる、樽の形(バレル)をしたサウナ小屋。主に木材を使用していることが多く、円形になっているため熱を均一に保つことに優れ、ロウリュ時の熱が効率的に室内に循環するようになっています。

PROFILE

伊藤 和徳(いとう・かずのり)さん

有機農業を営むため、2010年に愛知県から白川町黒川に移住。「和ごころ農園」で有機野菜や白川茶を育てています。2020年1月、偶然手にとったサウナのビジネス書をきっかけにサウナにはまり、「自分で育てた無農薬の白川茶をロウリュ(*2)したら気持ちがよいのでは」と思いつき、テントサウナを購入。地元の製材所や設計士を巻き込み、2022年に「里山サウナ」をスタートさせました。モットーは「好きなことは、少しでもいいから始めてみよう」。2023年からは、今まで始めたことを深めていくことが目標。

*2 ロウリュとは
熱したサウナストーンに水をかけて水蒸気を発生させ、発汗作用を促進するサウナ入浴法。サウナストーンにかける水にはアロマオイルなどが加えられますが、「里山サウナ」では白川茶や季節のハーブも使用されています。

有機農業を営む伊藤さんならではの視点で
里山の課題に向き合い「里山サウナ」をプロデュース

伊藤さんが最初に始めたのは、川の上や川原など自由にどこでも設置できるテントサウナだったそうです。「サウナから出た後、川の水に入る瞬間が本当にサイコーなんです!森の中というロケーションにも特別感がありますしね。多くの人にこの心地よさを体験してもらいたい!というのが始まりでした」と伊藤さん。ご近所さんからは『また伊藤が変なことを始めたぞ』と思われていたんだろうな…と当時を振り返ります。しかし、実際にテントサウナを体験してもらうと、その心地よさにみんな虜になったそうです。「サウナ後に川の水でキュッと血管を締めることで血流がよくなり、ととのう。さらには、外気浴や山の中というロケーション、いつもより敏感になっている肌に感じるそよ風…。里山だからこそできるサウナにチャレンジしてみよう!と思ったのです」。

なぜテントサウナがバレルサウナへと進化したのでしょうか。「里山再生にうまく貢献できるのではないか?と考えたことが、木材を使うバレルサウナを作り始めたきっかけでした。僕の本業の有機農業には、キレイな川の水が欠かせません。田んぼに水を引き入れなければなりませんが、気候が不安定で田んぼに水が入ってこなかったり、逆に雨で増水しすぎて困ったりするケースも増えてきました。その原因を専門家に聞いたところ、森の環境がよくないことが原因の一つだとわかったのです。木々は豊かに茂っているものの、森林が水を蓄えられなくなってきている。人の手が入った森には手入れが必要なのですが、後継者不足や高齢化によってそれが不十分なんですよね。森を整備することが必要不可欠なのですが、農家の仕事もある自分にはチェーンソーを持って手入れすることはできない。だったら、木材を使う仕組みを考えて森林を整えるきっかけを作ろう!と思ったのです」。

東濃ヒノキの間伐材を使用した
バレルサウナの誕生秘話

森を整備する仕組み作りのために、自分に何ができるのか。そう考えた時、サウナと結びつけることを思いついた伊藤さん。「そうだ!白川の山の間伐材を使ったバレルサウナを作ろう」と。地元の製材所にアイデアを持ち込み、共同開発していただけないかお願いしたそうです。「最初、製材所の方の反応はよいものではありませんでした。森を再生する仕組みを作りたいという想いやサウナブームであることを伝えるなど、ミーティングを重ねましたね。最後の一押しになったのが、僕が試しに購入した中国産のバレルサウナでした。バレルサウナ独特の樽型の丸みを出すためには、専用の刃物を作ってもらわなくてはならないのですが、製材所の方が実物を見て『これならできそう。私たちの技術と東濃ヒノキでもっとよいものを作ろう!』と共同開発することを承諾してくれたんです」。

0号機で試運転をしつつ、改良を重ねて商品化。間伐材をたくさん使用するために、白川町で楽しむ『里山サウナ』だけでなく、バレルサウナ自体を販売することが必要だと考えたのです。売値は165万円(ストーブ・煙突・サウナ込み※設置や運送費は別。2022年12月現在の価格)。今年1年で4台納品し、商談中や問合せも7件ほどあるとのこと。「名古屋や東京・大阪など遠方からも問合せが入っていて、とてもいいペースですね。みなさんに体験してもらい、多くの人にバレルサウナを楽しんでいただくことで白川町の森を再生できたら、人と森のいい循環が生まれるような気がします」。

里山の課題解決としても期待される里山サウナ
森も、お金も、身体も、循環させて“ととのう”きっかけに

東濃ヒノキの間伐材を使うことで森の再生・林業の活発化を促進できれば…という想いから誕生した「里山サウナ」。森を豊かにすることで自然本来の力が備わり、山の保水力が高まり山崩れしにくく災害にも強くなるという自然環境の整備以外にも、期待が持てる兆しがあったそうです。「0号機が完成し、ありがたいことに遠方から『里山サウナ』に惹かれて白川町へ訪れる人が増えてきたんです。ある時は、八百津でバンジージャンプをした後にサウナ目当てに白川まで来てくれた人もいました。人の循環を生むよいコンテンツになっていくのではないかなと期待しています。たくさんの人が色んなところから来てくれることで、お金が巡り、サウナで身体も心も満たされる。訪れた方に里山の現状を知ってもらうことで、『森の整備に参加してみようかな』という気持ちになっていただけたら、こんなにうれしいことはないですね!実際にサウナ体験者から『何か手伝えることがあったら呼んでください』と声をかけてもらうこともあるんですよ」と伊藤さん。

ヒノキと薪のいぶされた香り、はぜる音
五感すべてで里山の自然を感じる

では、伊藤さんがプロデュースする、東濃ヒノキを使ったバレルサウナの魅力はなんでしょうか。「ヒノキの香りと薪のいぶされた香り、バレルのやわらかいカーブ、薪の火がはぜる音や炎のゆらめきが、心を落ち着かせてくれる。それが『里山サウナ』の魅力ですね。温度があまり高くないので、ゆったりと長くいられるうえ、川の水にアロマオイルを垂らしてロウリュすれば、ほのかな香りに包まれるのがなんとも心地よいのです」と伊藤さん。

実際、この日も名古屋から来られた方が「里山サウナ」を体験されていたので、感想を伺いました。「サウナにはまっているわけではなく、あるとうれしいな…ぐらいでしたが、期待を上回りました!薪ストーブで温めるサウナは初めてでしたが、ずっと炎を見ていると時間を忘れるし、心が安らぎます。あまり温度が高くないので、じんわりゆっくりと身体が温まり、ほぐれましたね。サウナを出た瞬間、目の前に青空と山が飛び込んできて…。心が無になりました。そよ風も心地いいし、開放的で圧倒されますね。冷たい川の行水では身体がキュッと引き締まって、またサウナに戻って…。とても贅沢な時間でした」。

サウナは五感が研ぎ澄まされ、味覚も敏感になると言われていますが、「里山サウナ」ではサウナ後に伊藤さんが育てた有機野菜を使ったオーガニック飯を提供しています。「食事を出しながら育て方や品種をレクチャーしているうちに、農業体験に繋がっていくケースもありました。サウナを目的に来てくれた人たちが、里山や無農薬野菜に興味を持ってくれるきっかけのひとつになるんだ!という可能性を感じています」。また、オーガニック飯だけでなく、季節によってはロウリュする時に伊藤さんが育てた白川茶の三番茶やハーブ・バジルなどを使用することも。まさに「農家がプロデュースする里山サウナ」ならではの醍醐味を味わうことができます。

テントサウナを始めて2年。バレルサウナの試運転からはまだ1年。まだまだこの先の可能性が広がっていきそうです。

里山のサウナWEBサイト
https://satoyama37.jp/

WRITER

吉満 智子(よしみつ・ともこ)/ ライター

愛知県出身、岐阜県御嵩町在住。結婚式場と人をつなぐ仕事をメインに活動中。「ご縁を結ぶ」様々なかたちを目の当たりにし、その根っこにある「人を大切にする想い」の普遍性にしみじみする日々。御嵩に移り住んで感動したのは、徒歩圏内に蛍が飛び交うさまを見られ場所があるということ。守るべきものは、今この瞬間だと実感。

文: 吉満 智子(o-hana)、写真:黒元 雅史(STUDIO crossing)

Posted: 2023.01.24

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