千年後も変わらない里山のある暮らし。持続可能な未来を考える

チリから移住し、イチゴを育てる
マルタさんから見た里山の風景

Posted: 2024.07.26

INTERVIEW

視界いっぱいに広がる山々、木々の心地よい香り、そして飛騨川の清流が心を癒してくれる岐阜県加茂郡の里山・川辺町。この地で生まれ育った人々にとっては当たり前の風景かもしれませんが、ここには自然の恵みに感謝し、命を尊び、助け合う心が先人の知恵と共に宿っています。今回は、チリから川辺町に移住したマルタさんに、里山・川辺町の魅力をお話していただきました。

PROFILE

サルディアス・ナヴァレーテ・マルタさん

チリ出身。24年前(2024年現在)に川辺町出身の夫と共に日本へ移住。「紅ほっぺ」と「章姫」を生産し、JAめぐみのや道の駅などに出荷しています。日本には四季があり、いろいろな野菜を収穫できることが楽しいと感じているそうです。現在、故郷のお菓子を生産・販売する資格取得のため勉強中。

故郷を離れ、季節ごとの味覚を楽しめる日本の里山へ

マルタさんがチリから日本へ移住したのは24年前のことでした。チリで出会い、結婚した夫と当時1才になる息子さんと共に、故郷を離れて日本へやってきたのです。「名古屋に住んでいた時期もあったけど、週末は農作業をするため夫の実家がある川辺町へ来ていたの。川辺は暮らしやすい町だなぁと思ったわ。川や山が近いし、とても静か。子どもが育つ環境として、とても良いと感じたのを覚えています」。

マルタさんが生まれ育ったチリも、アンデス山脈があり、自然豊かな町だったそうです。「私は牧場のお手伝いをしながら育ったの。私の故郷はチリ南部でとても寒い土地だったから、野菜やくだものはなかなかたず、野菜といえばジャガイモがメインでした。スーパーで買っても中が傷んでいることもあったわ。四季がある日本はすばらしい!ナス、玉ネギ、トウモロコシ、季節ごとに野菜がたっぷり採れて『宝探しみたい』ってワクワクしたわ。育てるのは大変だけど、うまく収穫できたら美味しく食べられるし、健康的になる。探すのは大変だけど、見つけたらうれしい宝探しと同じでしょう?チリ南部に比べ、川辺町は豊かな農地があって野菜の味が違う!と思ったのを今までも覚えているわ」。

野菜づくりから始まった地域の関わりと新しい夢

マルタさんは昔から、コミュニケーションを取って役割や仕事を見つけることが得意だったそうです。「私も野菜を作ってみたいと思っていたら、70~80歳ぐらいのおじいさんやおばあさんがとてもやさしく教えてくれて。野菜の作り方を教えてもらいながら、日本語も一緒に覚えていったから、子どもたちからは『お母さんの話す言葉はおじいさん・おばあさんみたい』と言われるのよね」。

趣味で教わっていった畑仕事でしたが、川辺町の農業支援事業に申込み、本格的に学び、修行をしたそうです。「最初はナスを作って道の駅で売っていたの。でもなかなか完売はしなくて…。キャンプをする方がうれしいかなと思って、玉ネギ、ジャガイモ、ニンジンなどをセットにした『カレーセット』を売り出したこともあったわね。色んなアイデアを試していったのよ。でも、今はイチゴだけ。子どもが好きだから育ててみようかなと思って、ホームセンターでイチゴの苗を買ったのが始まりね。道の駅に置いてもらったら、お客さんが『おいしい!おいしい!』って言ってくれて、笑顔を見られてうれしかった。他の野菜と全然反応が違うのよ。みんなイチゴが大好きね。それからはもう、イチゴだけ作るようになりました」。

50年作っていても毎年1年生!四季折々の挑戦

「イチゴはね、苗づくりが大切なの。赤ちゃんの時から強い子に育てるんだよ。苗づくりを始める春先から夏頃は雨や台風など気候が安定しない時期だけど、病気にかからないことが大事。水は下からあげると病気になりにくいの。花を咲かせるためには、気温差がないと美味しく育たないから朝晩の気温が下がることが必要なんだけど、最近は6月から夏のように暑くなってしまうから難しいのよね」とマルタさん。病気との闘いも年々変化しているそうです。「うどんこ病などの病気やあぶら虫、ダニなどは、農薬以外の方法で防ぐ方法を導入しています。肥料の量をコントロールしたり、ダニやあぶら虫の天敵をハウスに入れて防いだり。それでも、去年は6~8月の猛暑で炭疽病が流行ってしまい、イチゴが枯れてしまったの。毎年新しい病気が出てくるから、見つけるのが大変ね」。

マルタさんは溶液栽培でイチゴを育てています。肥料は1日4~6回自動で入るよう機械化し、受粉にはクロマルハナバチというハチを使っているマルタさん。「ミツバチとクロマルハナバチを両方使うといいらしいんですけど、ミツバチは寿命が短くて死骸が多くなってしまうので使っていません。クロマルハナバチは大きいけど攻撃的ではないので、人を刺すことはない。ミツバチより低気温でも働くし、天気に限らず雨でも曇りでも、朝早くから働いてくれるのよ。とっても働き者ね。このハウスに50匹ぐらいいるんだけど、寿命はだいたい2ヶ月ぐらいかな。ハチを使った昔ながらの受粉方法と肥料を機械で管理すること。ハイブリッドね!毎年気候は変わるし、新しい病気にかかるし、慣れることがなくて、いつも新しい挑戦ばかり。50年イチゴを育てている人も『毎年1年生みたい』と言っているのよ。私は5年目だから、まだまだね。それでも、対策することで品質が上がっていくので、毎年色んなことを試しながら、ゲーム感覚で楽しんでいるのよ。いま、いちご栽培が出来るのは富松さんという川辺町の農家の先輩や、岐阜県・JAめぐみのの指導員のみなさんの指導のおかげね。毎日感謝しています」。

故郷の味を川辺町で再現するチャレンジも!

マルタさんには、ここ川辺町で試したいアイデアがたくさんあるそうです。「イチゴを育てながら、にわとりや牛も育てたいと思っているの。チリの実家は牧場を営んでいて、私はしぼりたての牛乳で育ったのよ。家でチーズを作ったり、バターを作ったり。天然素材のみを使っているから、味が全然違うの。幼い頃から手伝っていて作り方は分かっているから、ここで作りたいと思っているの。故郷のお菓子もお店に出したいわ。私の故郷はドイツ人が多いエリアで、ラズベリーやブルーベリーを使ったタルト菓子『クーヘン』をよく作っていたの。美味しいバターで作った故郷のお菓子を地域のみなさんに味わってほしい」と教えてくれました。現在、お菓子を製造・販売できる資格取得の勉強をしているというマルタさんの今後の活躍が楽しみです。

WRITER

吉満 智子(よしみつ・ともこ)/ ライター

愛知県出身、岐阜県御嵩町在住。結婚式場と人をつなぐ仕事をメインに活動中。「ご縁を結ぶ」様々なかたちを目の当たりにし、その根っこにある「人を大切にする想い」の普遍性にしみじみする日々。御嵩に移り住んで感動したのは、徒歩圏内に蛍が飛び交うさまを見られ場所があるということ。守るべきものは、今この瞬間だと実感。

文: 吉満 智子(o-hana)、写真:黒元 雅史(STUDIO crossing)

Posted: 2024.07.26

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