【里山にかかわる人々】
守りたいのは「自然」と「生きる知恵」
そして「誇り」【対談・後半】
Posted: 2021.03.10
ここまで、伊藤市長と山田課長の貴重な幼少時代の思い出を語っていただきながら、里山ならではの暮らし、生活の変化を聞かせていただきました。ここからは、今だからこそ大切にしていきたい里山との関わり方、来年度以降の具体的な取り組みや方向性を語っていただきたいと思います。
PROFILE
美濃加茂市長 伊藤 誠一(いとう・せいいち)
昭和31年生まれ。美濃加茂市太田町出身。昭和54年より美濃加茂市職員として勤務し総合戦略室長、経営企画部長など歴任。平成29年10月から美濃加茂市副市長を経て平成30年1月より美濃加茂市長を務める。プライベートでは8人の孫を持つおじいちゃん。子どもと自然との触れ合いを大切にしており、休日は登山などのアウトドアを孫と一緒に楽しんでいる。
山田 夕紀(やまだ・ゆき)
昭和46年生まれ。岐阜県八百津町久田見出身。平成元年より美濃加茂市役所にて勤務。平成26年から在籍した農林課では里山千年構想の立ち上げに関わり、美濃加茂市の里山振興に寄与。ウッドデザイン賞や森のようちえんアワード受賞の立役者。現在は、まちづくり課長として、里山をとおしたまちづくりを推進中。
情報化社会だからこそ、「本物」に触れる体験を
市長:今の子どもたちに「アブラ蝉ってどんな風に鳴くの?」って聞くと、みんなインターネットで調べよる。そんで、ジジジジジって鳴くんだなって知るんです。里山公園に行った時、今鳴いとる蝉なに?って聞いたら「わからん」って。「一緒(アブラ蝉)やないか!」って思うのにわからないんですよ。蝉もワンパターンの鳴き声じゃないから、ジジッジジッて鳴いたり、ジジジジジッて鳴いたりする。その変化がわからんわけ。本物は絶対に一緒のものはひとつもない。本物を耳で聞いて目で見ると、色んな違いがあるんやなってわかってもらえるし、インターネットがある今だからこそ、その違いがわかる。インターネットで検索した鳴き声を聞きながら本物はどうや?とかね。そういうのをやってもらうといいなって思うんやけどね。
山田:インターネットで色んなことを調べられる今でこそ!ですね。
市長:そうそう。里山はそれができる環境なんだよね。インターネットが進化すればするほど、本物との違いを知る場所が必要で、それこそが里山なんだよね。

「なんでだろう?」と考えるきっかけを大切に
市長:まずは「なんで?」って思ってほしいわけよ。例えばね、変わった形の岩を見たら、これってなんでこういう形になったんだろう?とかね。
山田:何があったのかなぁって不思議に思ってほしいわけですね。
市長:この葉っぱとこの葉っぱ、同じ木なんだけどなんで形が違うの?とかね。それを不思議に思って、家でインターネットを使って調べてくれたらいい。体験して遊んで汗かいて楽しいわ!も大事だけど、1個でいいので「なんで?」って疑問を持ってもらいたい。
山田:自然という教材ですね!子どもたちが考えるための。
市長:そうそうそう。いーっぱいある。同じ木を見ても、ある子には棒に見える。この子は四角に見えるとか。不思議だなって思う気持ちを持つことで、次のステップへ上がっていかんかな、と期待してますね。
山田:想像力を使って、疑問に感じたことを調べる中で森に興味を持ってもらって、そこから里山にも興味を持つ子が増えるといいってことですよね?そのきっかけ作りとして、子どもたちに森の中に入る機会を作る。そして、子どもたちが「自分たちで」考えることを望んでいるってことですよね。
市長:その子その子の感性で違いがあるからね。「今日はヒノキのことを勉強しますよ」でもいいんだけど。例えば「なんでヒノキっていう名前なのかな?」って疑問を持つことで、興味が生まれて、次へつながっていく。雲につながるわ、川につながるわってことになっていくと、それが一番ええかなと思いますね。
山田:興味を持ってもらえることで里山そのものを勉強していくだろうし、里山の大事なこともおのずと学んでいくようになっていきますからね。
市長:子どもたちが不思議に思ったことを「なんでなのか調べてみようよ」っていうことをサポートしてあげるのも大事やね。全部宿題だ!とか、明日までに!とかまではやらなくていいんだけど、この方法ならわかるよ!とかフォローできるといいね。
山田:なぜヒノキっていうのかはわかりませんが(笑)。今はインターネットがありますからね!
市長:本当にいい時代だと思うよ。今は(笑)
山田:昔だと人から教えてもらうから、間違えたまま覚えていることもあるし。
市長:いろんなことを聞きすぎて「面倒くせぇ!」って叱られたこともあったけどね(笑)。

大切にしたいのは「誇り」。そして、子どもたちが体験する機会づくり
山田:里山を守るための取り組みについてですが、まずは地域の人たちに誇りを持ってもらうことが大切だと思っています。地域の人たちが山の整備をしてくれていることで、川下の災害防止につながっている。日々やっていることが、里山にとって実はすごく大事なことなんだっていうことを誇りに思ってもらいたいんですよ。
市長:「地域の人」がね。
山田:そうなんです。自分たちがやっていることは、今の時代、あまり必要とされていないかもしれない。でも、例えば他の地方に住む人の反応を見て「すごいことなんだ」「大切なことなんだ」と気づいてほしい。誇りに思ってほしい。そうすると、おのずと子どもや孫たちへ伝えていくと思うんです。そこで、古民家の旧櫻井邸で地域の人たちが先生になって、他のエリアから来た人や若い子たちに里山の知恵を教え、体験する機会を作ろうと思っています。美濃加茂の安全は加茂郡の上流域が守ってくれているので、加茂郡の上流域の人たちにも講師になってもらって、自分たちがやっていることを伝えていく。そうすることで、興味を持ち、里山に目を向けてもらうきっかけになればと思っています。
「さとやまシューレ」のWEBサイトもそうですが、里山に関わっている人たちの話をどんどんつなげていき、昔の人がやってきたことを「聞き書き」という形で残していきたい。それを学びにつなげて、高校生たちが色んな見方をして、感じて、視点を変えてくれればと思うんですよね。子どもたちが「おじいちゃんやおばあちゃんがやってきたことは、なんて素晴らしいことだろう。自分たちはなんて恵まれているんだろう」って気づくことが、昔やってきたことを受け継いでいくきっかけになるんじゃないかなと。目上の人たちの話を聞くっていうコミュニティが、今後のまちづくりにもつながっていくだろうし、みんなでこの町を作っていくという意識を若い子にも知ってもらえるようにしたいな。ただ、山を守るだけじゃなくて。
おじいちゃん世代がヒーローになる。これからの里山
市長:昔から山に入っている人たちの想いは、別に自分の仕事が評価されなくても「俺はやることをやってきて、これからもやっていく」っていうね、本当にけなげっていうか純粋な思いだと思うんです。おじいちゃんおばあちゃんが頑張れるのはね、小さいお孫さんが新しい発見をした時に「なんか俺こいつらに影響を与えたぞ」っていう想いだと思う。小学生の中でおじいちゃんたちがスターになっていくっていう感じがいいなと思うね。
山田:そうですね。昔だとおじいちゃんおばあちゃんが山へ連れていって、それを覚えていて伝えていた。それは必要だったからこそ子どもたちに伝えていったんだけど、それがなくなったんですよね。自分たちはやるけれども、後には伝えていかないってことになってしまうと途絶えてしまうので、「おじいちゃんが子どもたちの中でヒーローになる」っていうのはいいですね!山の中で自分がやっていることを子どもたちが見て「かっこいいな!」「自分もやってみたいし身に着けたい!」って思ってもらえるといいなって思いますね。
市長:実際そういう人たちに何かやってくれってお願いするとね「俺なんも教えれへんし、俺なんかなんもできんわぁ」ってなるんだよね。
山田:そうそう!でも、そうじゃないんですよね。
市長:教える必要は全くない。見せるだけでいい。その時に子どもたちから「ねぇねぇ伊藤のおじいちゃん。なんでおじいちゃんは右足を上げて仕事してるの?」っていう疑問をどんどん投げかけてもらってね。「あぁ、そういや俺はなんで右足上げてるんだったかな?」って改めて考えることもあるかもしれないけど、それにはちゃんと理由があるんですよね。
山田:確かに。
市長:こんなことが彼らの疑問になってるのか。それはね、実はね、私もおじいちゃんからこうやって教えてもらったんだよ!とかね。実際にやっとる現場を見て、子どもたちが「なんでああいう風にするんだろう?」ってことに対して答えてもらうだけですごい刺激になる。そのことを、子どもたちがおじいちゃんに「今日すごく勉強になった」って伝えてあげると「あ!俺ちょっとうれしいなぁ」とか思うわけですよ。勉強候(そうろう)っていうんじゃなくてね、子どもたちの疑問に答えてあげながら、自分が求められていることを知ってくれたらと思いますね。
山田:何かする時には必ず、教えてもらったルールがあって。この木はここから切るよりもこっちから切る方が倒れやすいんだよ!とか、やりながらでも教えてあげられるし、「なんで?じゃあこの木はどっちから切るの?」って疑問に思って聞いてくれると、おじいちゃんもすごく喜んで教えてくれるだろうし。自分がおばあちゃんに聞いたことを子どもたちに伝えることで、受け継がれていくんだっていう満足感も得られそう。美濃加茂の人たちも加茂郡の人たちもスキルを持ってみえる方がいっぱいいらっしゃる。そういう方たちから体験を通して教えてもらえるような場を設けられるようにしたいなぁって思ってます。かしこまらずにね。

他のエリアの人との交流を通して、この土地の「当たり前」を紐解いていく
市長:もうひとつ必要なことがある。美濃加茂市内の中でも、例えば山之上では当たり前のことが古井の人は知らないとか、あるでしょ?あるいは八百津では当たり前のことを美濃加茂が知らないとかね。地域の新しい発見をするには、外の人に見てもらうのが絶対いいと思うんやて。自分たちでは当たり前にやってたことが彼らにとっては刺激だしね。そういう地域間の違いもひとつのきっかけになるかと思うんだけどね。
山田:お祭りもそうですよね。ちっちゃい山の中にある祠が実は豊作を願う神様なんだよ!とか、火から山を守るための神様なんだよっていうのも、田舎の人には当たり前なんで敢えて言わずにお祭りを続けているけど、古井の人から「なんでこういうことしてるの?」って聞かれた時に教えれば、地元の人でも「知らなかった!」っていう人の気づきになるってこともあるだろうし。
市長:自分の地域のことを知るためには外の人に来てもらうっていう試みをね、行政としてはやっていく。これはできると思う。
山田:はい。
市長:今、東京からこっちへ来る人もおるでしょ。今はチャンスだと思うね。10人20人集める必要はないからね。1人2人に来てもらって、知ってもらい、つながっていくことで、大きな刺激になる可能性があるからね。
山田:「自分たちがやってきたことは誇りを持てることなんだ」と地元の人に再確認してもらうためにも、外から来てもらうための施策を行政がやるっていうことは必要ですね。特に今のコロナ禍で自然が見直されているので、色んな企業の人にも目を向けてほしいというのもあります。そしてね、個人個人が山のことをもう一度振り返ってみてもらうきっかけが作れるようにしたいと思ってます。
市長:私はね、里山っていうのは神様やと思っているので、里山に携わっている人は神様のことを代弁してやっとるわけです。子どもたちにも「ここには神様がいるんだよ」「俺らが木を切るっちゅうのはなぁ、山の神様になるってことだよ」っていうことをね、ちょっと怖い話なんかも入れたりしてさ、やってあげるとものすごく興味が出てくると思うんだよね。そもそも神様って何かわからんやら?
山田:わかりません(笑)
市長:日本人って、これも神様やしあれも神様やし…みんな神様でしょ?日本はキリスト教の行事もやるし中国の行事もやっちゃうで、日本人はなんでもできちゃうやら?それぞれの地域の神様を大事にしとるよってことを伝えていくと、自分のところの祠はやっぱり大事やなと地元の人も気づくんだよね。それこそ、里山と白川の神社について学ぶとか、そういう取り組みも今後してもいいんじゃないかなって思うんだよね。
山田:神様も含めて、何かに感謝をする心って自然の中で教えてあげられるものが多いですからね。

里山を守ること。それは、豊かな自然を残していくということだけではなく、何百年も前から受け継いできた先人の知恵や生き様をも次世代へつなげていくということ。守り継げるか途絶えさせるかの瀬戸際にあるという今、行政が主体となって、様々な取り組みが行われています。体験して感じた「なぜ?どうして?」という小さな疑問が、里山を守っていくための第一歩になる。そのための試みが、今後も多数予定されています。
WRITER
吉満 智子(よしみつ・ともこ)/ ライター
愛知県出身、岐阜県御嵩町在住。結婚式場と人をつなぐ仕事をメインに活動中。「ご縁を結ぶ」様々なかたちを目の当たりにし、その根っこにある「人を大切にする想い」の普遍性にしみじみする日々。御嵩に移り住んで感動したのは、徒歩圏内に蛍が飛び交うさまを見られ場所があるということ。守るべきものは、今この瞬間だと実感。
文: 吉満 智子(o-hana)、写真:黒元 雅史(STUDIO crossing)
Posted: 2021.03.10