千年後も変わらない里山のある暮らし。持続可能な未来を考える

【森のようちえん 自然育児 こどもの庭】

自然の中でのびのびと育む「生きる根っこ」

Posted: 2021.12.15

INTERVIEW

現在、日本全国に広まっている「森のようちえん」。
「森のようちえん」とは、自然体験活動を基軸にした子育て、乳幼児期教育の総称です。デンマークのあるお母さんが、近所の子どもたちを森の中で保育したのがはじまりとされています。毎日、森や山など自然の中で過ごす保育スタイルが大きな特徴です。

なぜ「森」なのでしょうか。
森で遊ぶ子どもたちの姿を見れば一目瞭然!目がキラキラと輝いているのです。自然には毎日変化があります。何を発見し、どう感じるのかは、10人子どもがいれば10通りある。幼児期を自然の中で過ごすことで、好奇心、創造力、挑戦、失敗、人との関わりなど、成長に欠かせない数多くのことを学ぶことができるのです。

そんな「森のようちえん」が、美濃加茂市にもあります。
今回は「森のようちえん 自然育児 こどもの庭」を取材しました。

メインフィールドにしている山の目の前にある園舎。一日中ここで過ごすことはほとんどないそう。

PROFILE

園田 智子(そのだ・ともこ)さん

「一般社団法人 こどもの庭」代表理事。岐阜県加茂郡八百津町在住。第一子出産をきっかけに、子どもと一緒に自分自身も育ち直そう!と考え保育士の資格を取得。同じ頃「森のようちえん」の存在を知り、「こんな育児があるのか」と驚く。その狙いのひとつである「生きる力を育む」ということに共感し、第一子が年少になる2015年に「こどもの庭」を開園。2021年1月には美濃加茂市に園舎を完成。園舎の目の前にある山をメインフィールドに、生きる力を育む保育を実践中。

「こどもの庭」で大切にしていること

岐阜県美濃加茂市の豊かな自然のなかで過ごし、親と子どもが一緒に育ち合う場所。それが「こどもの庭」です。年少から年長まで約15人(2021年11月現在)が一緒に山や森を駆け抜け、毎日を過ごしています。

・自然とつながる、仲間とつながる
・柔らかくたくましい心と身体を育む
・物事の成り立ちを知り、ホンモノに触れる
この3つを軸に、日々保育を行っています。

入園したての年少さんから、お弁当や着替えの入ったリュックを自分で背負って山に入ります。

「こどもの庭」での生活は、基本的には山や森の中。小雨程度ならカッパを着て出かけていきます。お弁当や敷物、水筒、着替え、タオル、木の実を入れる袋、雨具など、その日一日森で過ごすために必要な荷物を全て自分のリュックにつめて森へ入ります。自分のものは自分で管理する、天候や気温に応じて自分で衣服の調整をするということから、身辺の自立が始まり、自然環境に適応するため、自ら考え行動する、生きる力を育む第一歩になります。

自然の中でのびのびと。
本来備わっている「育つ力」を信じて。

「昨今のコロナ禍で、自然の心地よさに再び目を向けられるようになってきたように思います。暮らしの中で目にする木や葉、草、石などは、ふたつとして同じものはありません。そして、昨日と同じものもないのです。そういった発見や季節の移ろいは、教えるものではなく、自ら感じ取るもの。『子どもは生まれながらによりよく育つ力を持っている』というのは、私が尊敬する保育士さんの言葉です。子どもが持っている力、育とうとする力を発揮できるように見守り、寄り添うことが大人の役割なのかなと思っています」と園田さん。

大人のペースで導いていくのではなく、子どものタイミングを大切にする。もちろん、命に危険があることや最低限のルールは教えますが、大人がするのはただそれだけ。「過不足ない大人の関わり」を大切にすることで、子どもの育つ力を引き出していく。それは、決して簡単なことではありません。

木登りのコツも、斜面で転ぶ痛みも、教えてもらうのではなく身体で学ぶことで加減を知っていく。

保育を通じて大人も子どもも育ちあう場所にしたい。そんな考えから保護者による保育当番もあります。木登りも子ども同士のケンカも、大人は手も口も出さないことを心がけています。「自分の子どもが木に登りたいと言えば手を貸したくなりますし、ケンカをしていれば口を挟みたくなります。ですが、そこはグッと堪えて見守ります。すると、子どもたち同士で助け合い、ケンカの仲裁役になったり、子どもたちなりに考えて成長していくのです。大人が教えなくても人との関わり方を学んでいく…。大人側のそういう気づきも大切にしています」。

自然の営み×安心・安全。
里山ならではのフィールドで暮らし方を学ぶ。

「草刈り機すら手にしたことのなかった私でも、自然の中で子どもたちと一緒に成長していける場所。それが美濃加茂の里山でした。」

加茂郡八百津町在住の園田さんが、メインフィールドを美濃加茂市に設けた理由を聞いてみました。

「加茂郡は自然がとても豊富。ですが、自然というのは危険も伴います。地域の人たちが整備して、大切に守ってきた山だからこそ、私たちは安心して保育のフィールドにできるんです。そういう意味で、美濃加茂市の里山が私には最適でした。山の持ち主さんが『ここの柿やキウイは自由に食べていいよ』『木を切って広場にして使ってもいいよ』など、とても協力的なのもありがたいですね。木こりさんを講師として招いて木の切り方をレクチャーしてもらったこともありました。今では、年長さんはノコギリを使って竹を切り、広場を作ることもしているんですよ!山に光を入れるために木を切って、それを薪にして屋外炊事も行っています。山をきれいに整備しながら、それを資源にして食事を作る。そんな里山の暮らしを体験できる最高の環境だと思っています」。

お弁当を食べる場所も、時間も、すべて子どもたちのタイミングに合わせて毎日活動しています。

屋外炊事は、月に2~3回実施。おくどで火をおこし、お米を研いで羽釜で炊きます。そして、収穫した野菜をお味噌汁に。火の番も含めて、大人はできるだけ手を出さないように見守っているそうです。下の学年の子どもたちは、年長さんたちの様子をじっと見ています。そうやって見ているうちに、学んで覚えていくんですよね」。

このような子ども同士の継承は、他にもあります。

自然の中で過ごすということは、危険生物や植物とも隣り合わせ。そのことについては、最初に大人からしっかりと伝えていきます。すると、オオスズメバチがいる場所を子どもたち同士で伝え合い、刺激しないようにしたり、急な斜面は「落ちると危ないから気を付けて」と声を掛け合ったり…。できるだけケガをしないよう見守りますが、ちょっとしたケガは子ども自身が「ここまでしたら痛い思いをするのだな」という加減を知るきっかけとなり、同じことはしなくなっていくのだそう。

「物」の成り立ちを知ることの大切さ。

年長さんのリュックには、常に縄が入っています。
「毎年、年中さんはさらしを草木染し、より合わせて縄を作っています。先生は年長さんなんですよ。その縄を木にぶらさげてブランコにしたり、縄跳びをしたりして、思い思いに遊ぶのです」。
これは、物の成り立ちを知ってほしいという思いで取り入れた活動のひとつ。他にも、大豆を育てて、野外炊事の時に使うお味噌を作ったり、羊の毛刈り体験をした後、毛を染めて、フェルトを作ったり、毛糸を紡いだり…。
「縄跳びの縄もお味噌もフェルトも、とても簡単に手に入ります。でも、これはどうやってできたのか?何でできているのか?という物の成り立ちや物事の背景に思いを馳せるきっかけになってほしいと思って取り組んでいます。毎年、年長さんにはクリスマスプレゼントに園からナイフを贈っています。そのナイフで木を削り、お箸やえんぴつを作って小学校入学準備をするんですよ。自分で作るからこそ、思い入れが深くなり、大切にしよう!と思う気持ちが生まれる。この体験を積み重ねることで、物の成り立ちを想像し、必要なものを必要な分だけ用意して大切に使っていくという習慣を身に着けられればと思っています。まさに、里山での暮らしそのものですよね」。

体験したことを知識へつなげる。
卒園後のチャレンジも。

自然の中で育った子どもたちが、小学校入学後に少しずつ自然とのつながりを失っていくのは淋しい…。そこで、「こどもの庭」では不定期でプレーパークを実施しています。赤ちゃんから大人まで、だれでも参加できますが、卒園生が山に戻るきっかけになったら…という思いもあるそうです。

ある時は生き物講座を行い、専門家を招いて、山を歩きながら生き物の生態について教えてもらったことも。落としてしまったおにぎりのご飯粒を大きなアリが運んでいくのをじっと観察していたようちえん時代。その体験が「あぁ、あれはそういうことだったのか」と知識としてつながることで、感覚が知性へと変わる。

「山へ帰ってくると表情がイキイキと輝き、当時のようにのびのびと走り回る卒園生たちの姿を見て、いつまでもこの環境を残しておきたい。山へ戻ってくる機会を作ってあげたいという気持ちが年々高まっています。里山での遊びが原体験となる子どもたちが、知識を重ねることで里山の大切さを実感し、帰ってきてくれたらいいなぁと思っています」。

幼児期という大切な時期に、子ども自身の「よりよく育つ力」を信じて、自然の中で好奇心や探求心を刺激する「こどもの庭」。

小学生になり、山で過ごした時間とのギャップを感じる子どももいるようです。それでも、自然の中で育んだ「生きる力」と、本来の自分に戻れる場所・仲間がいるということが拠り所となり、よりよい人生を切り開いていく。「生きる根っこ」を深く、広く張り巡らせた生命力あふれる子どもたちが、里山を守る未来の担い手になっていくのかもしれません。

WRITER

吉満 智子(よしみつ・ともこ)/ ライター

愛知県出身、岐阜県御嵩町在住。結婚式場と人をつなぐ仕事をメインに活動中。「ご縁を結ぶ」様々なかたちを目の当たりにし、その根っこにある「人を大切にする想い」の普遍性にしみじみする日々。御嵩に移り住んで感動したのは、徒歩圏内に蛍が飛び交うさまを見られ場所があるということ。守るべきものは、今この瞬間だと実感。

文: 吉満 智子(o-hana)、写真:黒元 雅史(STUDIO crossing)

Posted: 2021.12.15

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