千年後も変わらない里山のある暮らし。持続可能な未来を考える

【晴耕雨読とみだ】

加茂郡白川町の「宝もの」を詰め込んだ
暮らすように泊まる古民家ステイ

Posted: 2022.03.30

REPORT

岐阜県加茂郡東部に位置する白川町。飛騨川へそそぐ佐見川、白川、赤川、黒川が扇状に伸び、それらの流域に集落が点在し、自然と共に人々が暮らしています。東濃ひのきや冷涼な気候を活かした白川茶・夏秋トマトの生産が有名なこの町は、山々にうぐいすの鳴き声が響きわたり、ツバメが巣作りに訪れる里山ならではののどかな風景が広がっています。

この白川町黒川に、令和2年に古民家ゲストハウスが誕生しました。
■地域を発信する拠点として
■ワーケーションやコワーキングを行うスペースとして
■農業体験・里山体験などのアクティビティも楽しめる宿泊所として
…など、幅広い可能性を秘めている「晴耕雨読とみだ」の魅力をご紹介します。

【晴耕雨読とみだ 概要】

平成15年、古民家を白川町へ寄付。はじめは「介護予防拠点施設」(※1)として活用されていました。利用者の減少などにより施設を閉めることとなり、当時空き家を担当していた移住交流サポートセンターへ管理を委託。地域住民のアンケートを元に、個室を活かし泊まれる施設へと利活用することになり、令和2年10月に里山ゲストハウス「晴耕雨読とみだ」がオープンしました。

※1 住み慣れた地域環境で、自立した生活を継続していけるよう支援する施設

心にゆとりをもたらす山の眺め・空気・光・水・音…
自然の営みに沿った里山の暮らしを

晴耕雨読とは、世間のわずらわしさを離れて心穏やかに過ごすという意味。晴れた日には田畑を耕し、雨の日には読書するという自然の営みに沿った暮らしが、心を満たすことを表しています。木々の様子や空気の密度、降り注ぐ太陽や川のせせらぎ、鳥の鳴き声…。そのすべてから四季の移ろいを感じ、自然と共に生きる。まさに里山の暮らしそのものです。

「晴耕雨読という言葉は、元々私の好きな言葉でした。晴れた日には白川の自然の中でアクティビティを楽しんでもらい、雨の日には屋内でゆったり本を読んで過ごす…。そんな暮らすように泊まっていただけるゲストハウスを目指しています。うぐいすの声に耳を傾けるような静かな環境で、自然の流れを体感して過ごしてもらえたら。そう思って名付けました」。そう教えてくれたのは、「晴耕雨読とみだ」を管理している白川町移住・交流サポートセンターの塩月さんです。

客室は2つ。それぞれミニキッチンやトイレ・ワークデスク付。

各部屋に2台ずつベッドを設置しており、1部屋最大4名まで宿泊可能です。お風呂・洗濯機は共同で、広い共同キッチンは自由に利用可能。1泊3500円(4名様以上ご利用時)~。コロナ禍の今(2022年3月現在)は、1日1グループ限定の一棟貸しにしているそうです。アクセス方法は車かオンデマンドのバス。予約をすれば、白川駅からこのゲストハウスまで送り届けてもらえるのもうれしいですね(利用料片道400円)。

食事は黒川のおいしいものをデリバリー
地域と人をつなぐ役割としても

「晴耕雨読とみだ」の宿泊は素泊まりです。歩いていける場所にモーニングができる喫茶店や居酒屋、地元の商店があり、宿泊をきっかけに地域のお店の活性化につながることを願って積極的に紹介しています。

また、黒川自慢のおいしいものをデリバリーすることも可(要予約)。朝食には、口コミで人気の店舗を持たない「菓子・パン工房 SORAKARA」のサンドイッチ3種(野菜・コロッケ・フルーツ)セット、ベーグル3個セット各600円がおすすめ。パン生地はもちろんコロッケも自家製で、「晴耕雨読とみだ」まで届けてくれます。

夕食には、ケイちゃん2種類(醤油・みそ・塩のいずれか)・キャベツ・玉ねぎ・ミニトマト・チーズが入ったケイちゃんセット2000円の食材デリバリーが人気。黒川で作られた、岐阜県の郷土料理のひとつ「ケイちゃん」は、野菜と一緒にフライパンで炒めるだけ!簡単に岐阜のグルメを味わうことができます。ぜひ試してほしいのが、チーズとトマトを入れたイタリアン風ケイちゃん。「姉妹都市であるイタリアのピストイア市にちなんでイタリアン風に挑戦してみたら、本当においしくて!デリバリーメニューに取り入れました」と塩月さん。滞在をきっかけにこの地域を好きになってもらいたい!そんな塩月さんの工夫を随所から感じることができます。

白川茶・麦飯石・蔵書
白川町の宝ものが集まる場所に

白川茶や黒川ならではのミネラルウォーターが飲み放題というのも魅力のひとつ。日本有数の銘茶として広く知られている白川茶は、緑茶のほか、ほうじ茶・和紅茶も用意されています。

国内では唯一の産地である薬石「麦飯石」を入れたミネラルウォーターも常備。「麦飯石」は古来、漢方薬として用いられてきたもの。ミネラルを多く含み、水を浄化させる力があるとされていて、水に入れておくだけで甘味のある美味しい水ができるそうです。これらを自由に飲むことができるのがうれしいですね。

さらに、白川町は「読書のまち」としても知られています。ここ「晴耕雨読とみだ」では約5000冊の本を所蔵しており、晴耕雨読を体現できるようになっています。これらの本は全て地元住民から譲り受けたもの。地元の大工さんが作ったので大切にしてもらえたらと、本棚ごと寄贈された方もいるそうです。有機農業が盛んな白川町ならではの専門書もあり、農業に興味がある人が読みふけっている姿も見かけるそうです。

地域の人たちの集う場所として利用できるほか
ワーク×サウナもおすすめ

古民家の中には10名ほどが利用できるコワーキングスペースがあり、ニューノーマルなワークスタイルにも対応可能。高速wi-fiやカラープリンター、ホワイトボード、アクリルパーテーションがあるので、会議や研修を行うのに快適な設備が整っています。この空間には、蔵書がずらりと並ぶほか、絵本や木馬、ハンモックのあるキッズスペースや、昔なつかしい足踏みオルガンもあるので、子どもが遊びに熱中している間に仕事を進めることができます。ほか、4名ほどで利用できるワークスペースや客室でのワークも可能で、ひとりで集中したい人やリモート会議を行う際に便利です。

ワークスペースのみの利用は1時間300円。地域住民は月契約で利用することもできます。宿泊者は無料で利用することが可能。

また、おすすめしたいのが、地元の薪を使って温めるという里山ならではのサウナです(約2時間、1名3500円)。昼間は仕事に集中し、夕方からサウナに入ってリフレッシュ!というニーズが増えてきているそうです。その魅力のひとつは、サウナが屋外に設置されていること。サウナ中は窓から里山をゆったりと眺めて過ごし、クールダウンで外に出ると気持ちのよい空気に包まれるという瞬間が格別なのだとか。夕方からスタートすると、外に出る度に星が増えていくというのもロマンチックですね。

ここで体験できるのはセルフロウリュサウナ。ロウリュとは、サウナ発祥の地フィンランドの言葉で「蒸気」「熱せられた蒸気」という意味で、熱せられたサウナストーンに水をかけて水蒸気を発生させる入浴方法です。水蒸気がサウナ室内に広がることで、体感温度が高まり発汗を促進。心地よいサウナ体験ができるのです。ここでは、三年番茶のロウリュやアロマとコラボレーションするなど、地域の人と一緒に取り組む工夫も。

様々なアクティビティも案内
農業体験や移住前の仮暮らしにも!

白川町グリーンツーリズム協議会の事務局にもなっているので、様々な里山体験を案内することができます。敷地内のサウナだけでなく、川の近くにテントを張る「テントサウナ」や農業体験、ハンモックづくりなど、里山の楽しみ方を体感できる多彩なアクティビティを目当てに訪れる人もいます。レンタサイクルも行っているので、移動やサイクリングに利用できます(1日500円)。

「晴耕雨読とみだ」はまだ始まったばかり。地域住民や利用者の意見を取り入れながら、試行錯誤の日々だそうです。

「地域の人が気軽に足を運んでもらえる場所になったらうれしいですね。泊まれる図書館としての利用も増えていくといいなぁと思っています。本はさまざまなジャンルのものがそろっています。いつもと違う静かな環境は、読書にぴったりだと思うのです。蔵書5000冊の中には、利用者が持ち込んで読み終わった本を置いていったものもあります。また、気に入った本や滞在中に読み終わらない本があったら貸し出しもしています。貸出期限はありません。『次に来る時に返してね』という緩やかな図書館のような存在を目指しています」。

晴耕雨読 とみだ
https://ku-sumu.wixsite.com/seikou-udoku-tomida

白川町グリーンツーリズム協議会
https://www.itoshiki.fun/

 

WRITER

吉満 智子(よしみつ・ともこ)/ ライター

愛知県出身、岐阜県御嵩町在住。結婚式場と人をつなぐ仕事をメインに活動中。「ご縁を結ぶ」様々なかたちを目の当たりにし、その根っこにある「人を大切にする想い」の普遍性にしみじみする日々。御嵩に移り住んで感動したのは、徒歩圏内に蛍が飛び交うさまを見られ場所があるということ。守るべきものは、今この瞬間だと実感。

文: 吉満 智子(o-hana)、写真:黒元 雅史(STUDIO crossing)

Posted: 2022.03.30

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