千年後も変わらない里山のある暮らし。持続可能な未来を考える

【林業母さんに学ぶ里山の暮らし】

林業を営み、自然に癒されながら日々を楽しむ

Posted: 2023.01.24

COLUMN

岐阜県の中東部に位置する白川町。森林面積は町土の88%を占める東濃ヒノキの産地です。人口減少や高齢化による林業従事者の減少を打破するため、新たに林業従事者を集い、育成する「地域おこし協力隊」(*1)という制度があります。今回は、「地域おこし協力隊」で林業技術を習得し、卒業した現在も白川町で山を整備している“林業女子”三宅佳奈恵さんに森で働き、森を楽しむ里山の暮らしについてお話を伺いました。

PROFILE

三宅 佳奈恵(みやけ・かなえ)さん

2019年、新規林業従事者として白川町「地域おこし協力隊」に就任。チェーンソーで木を伐り、重機の操縦も行っています。また、休日には娘さんと近所にキャンプに行くのが楽しみ。ハンモックのワークショップを開催する中で、森で過ごす心地よさを広める活動も行っています。

未経験から始めた林業
きっかけは、おじいちゃんのやさしさ

もともとキャンプやアウトドアが好きで、自然の中にいることが好きだったという三宅さん。「協力隊として白川町に来る前は、デイサービスの体操指導員をしていたのですが、御嵩町で山を整備する活動をしている『水土里隊(みどりたい)』に参加したところ、山を整備してキレイにする体験を通して『山っていいな。山で働きたい!』と思ったのです。でも、そこではおじいちゃんたちが『危ないから』と鎌しか持たせてもらえず。女性だから…と気遣ってくれたんだと思うのですが、物足りなくて。もっと自分の力で山をキレイにしたい!と思ったんです」と、林業を目指すきっかけを教えてくれました。

林業の仕事をしたい!と思いつつも、なかなか見つけられないでいたところ、白川町で「地域おこし協力隊」の募集があることを知り、応募したそうです。

「30代・未経験・当時4才の子持ち女性という自分の条件がかなりイレギュラーだったようで、とても丁寧に面接していただいたのを覚えています。長い時間をかけて話し合い、その熱意を買っていただけたのか、採用の連絡が来た時にはうれしかったですね!」。

体力面で大変さを感じる一方、
持ち前の柔軟性を武器にして伐倒担当に!

就任後は市場で1カ月半ほど木材の基礎や流通を学び、その後チェーンソーの資格を取得、林産班では伐採基礎をしっかり教えてもらい、実地体験しながらコツを教えてもらったという三宅さん。初めてチェーンソーを使って木を伐倒したときは「おぉ!この木を自分で切ったんだ!自分すごい!」と感動したそうです。5キロほどのチェーンソーを持ち、刃の角度をキープしながら伐倒する姿は、なかなか勇ましい。「姿勢を保つのが大変ですね。立っているだけでもやっと!という急傾斜の木を倒す時には、木に足を巻き付けて前に乗り出すことも。元々体幹には自信があるし、身体がやわらかいのが自分の武器です。私の仕事は伐倒がメイン。1日に50本以上切ることもありますが、毎日が楽しいですね。今は寒い時期なのでお昼休憩には焚火をして温まっていますが、夏場には自分で作ったハンモックでお昼寝をして体力を回復させています」。

自身のTwitterで「林業女子」として情報を発信している三宅さんですが、男性よりも体力は劣るし、山を登るだけでしんどいと感じる時もあると言います。「日々の仕事で少しずつ鍛えられてきているのを感じますね。家では、身体を壊さないように念入りにストレッチなどのメンテナンスをしています。男性には男性の、女性には女性の役割があっていい。できないことは無理せずお願いする。役割分担しながら、自分でできることを探していきたいですね」。

町の人たちとの交流・つながりを生んだ
協力隊としてのイベント活動

林業を学ぶため、当時4歳の娘さんと白川町へ移住した三宅さん。不安はなかったのでしょうか。「私は岐阜県御嵩町で生まれ育った里山育ちなので、いわゆる田舎暮らしに戸惑いはありませんでした。ただ、人見知りをする性格で友だちを作るのが得意ではなかったので、不安はありましたね。でも、子ども向けの森林学習やシャワークライミングの引率など、協力隊の活動を通して地元の人たちと交流する機会が多かったので、すぐに馴染めました。林業仲間の家族や子どものネットワークもあって、地域にすんなりと溶け込むことができたように思います。今住んでいる家も、林業仲間が紹介してくれたんですよ。一軒家なので、お休みの日に大きな音を立てて大工作業をするなど気ままに過ごせて快適です」。

「好き」が身近にある
親子にとって理想の暮らし

休日の過ごし方にも変化があったという三宅さん。「もともとキャンプが好きで、子どもが1歳の頃から一緒にキャンプに出掛けていました。移住して変わったのは、キャンプがとても身近になったこと。近いので行きたい時にいつでも行けるのがうれしいですね」。さらに、森林文化アカデミーでハンモックづくりを習得したことでますます趣味が広がったのだとか。山に癒され、リフレッシュできる…。そんな素晴らしい体験を多くの人におすそ分けしたい!という想いから、ハンモックのワークショップを不定期で開催しているそうです。

子どもの遊び場は、基本的には里山。そこにあるものを使って、自分で考えて作って遊ぶことが得意になったそうです。「石や木を使って遊んだり、紙を使って工作したりするうちに、娘のアイデアがどんどん広がっていくんですよね。これは、日本中のどこでも体験できることではなく、里山だからこそ体験できることだと思うんです。娘はできないことがあると泣いて怒っていた時期もありましたが、今では『諦めない!絶対にやりきる!』という気持ちで試行錯誤しながら取り組めるようになりました。メンタルも鍛えられているのかな。娘は6歳にして、キャンプのキャリアは5年!最近、メタルマッチを使った火起こしもマスターしました。娘の目標は『ソロキャンプをしたい』ということです。たくましく成長してくれて、親としてうれしいですね」。

自然に囲まれ、自然と共に生きる
夢は自分で整備した山を憩いの場にすること

自然豊かな里山は、親にとっても、子どもにとっても癒しになり、心身共に鍛えられるということを実感している三宅さん。「この経験を多くの人に感じてほしい!山と親子をつなげたい!と思い、次の夢も見えてきました。それは、自分の山を手に入れて整備し、真っ暗な山に光を取り入れたい。自分の手でキレイに整えた山にキャンプ場を作って、みんなに遊びに来てもらいたい!ということです。ハンモックのワークショップも開きたいですね。自然の中でハンモックに寝そべり、揺られる心地よさを体験していただきたいですし、何より私自身が楽しめる。そんな場所を作りたくて、今、山を探しているところなんですよ」と教えてくれました。毎日の仕事の延長に、自分の夢がある。そんな暮らしが、楽しくて仕方がないそうです。「白川町に来てよかった!毎日が楽しい」と言っている子どもの存在も、三宅さんの夢を後押ししてくれているそうです。

白川町で林業を営みながら自然と触れ合い、「好き」を楽しむ。今の環境は、三宅さんにとって理想の暮らしそのもの。「仕事に行きたくないと思ったことは一度もありません。ヒノキの香りがする山に癒され、やりがいもある。焚火を囲んで食べるお弁当は美味しいし、身体も鍛えられる!お休みの日には、晴れたらキャンプへ行き、雨が降ったら家の修繕や家具、小物などを作るDIY。自然と一緒に生きている今、とても充実しています」。三宅さんが楽しく暮らしているのを見ているせいか、娘さんの将来の夢は「きこりになりたい」なのだとか。

「自然の中で暮らすのは、本当に気持ちがいいものです。ぜひ癒されに来てください!」とさわやかに語ってくれました。

*1 (岐阜県庁公式サイトより抜粋)地域おこし協力隊とは、人口減少や高齢化等の進行が著しい地域において、地域外の人材を積極的に誘致し、その定住・定着を図ることで、地域力の維持・強化を図っていくことを目的とする国の取り組みです。具体的には、地方自治体が都市住民を受入れ、地域おこし協力隊員として委嘱し、概ね1年以上3年以下の期間、地域で生活(住民票を異動)し、農林漁業の応援、水源保全・監視活動、住民の生活支援などの各種の地域協力活動に従事していただきながら、地域への定住・定着を図っていきます。

WRITER

吉満 智子(よしみつ・ともこ)/ ライター

愛知県出身、岐阜県御嵩町在住。結婚式場と人をつなぐ仕事をメインに活動中。「ご縁を結ぶ」様々なかたちを目の当たりにし、その根っこにある「人を大切にする想い」の普遍性にしみじみする日々。御嵩に移り住んで感動したのは、徒歩圏内に蛍が飛び交うさまを見られ場所があるということ。守るべきものは、今この瞬間だと実感。

文: 吉満 智子(o-hana)、写真:黒元 雅史(STUDIO crossing)

Posted: 2023.01.24

pagetopTOP