千年後も変わらない里山のある暮らし。持続可能な未来を考える

【【桃太郎伝説】が残る川辺の鬼飛山】

整備も登山も楽しく、健康増進!

Posted: 2024.01.27

COLUMN

岐阜県川辺町は、低山ながらも絶景を楽しめる山があります。「岐阜のグランドキャニオン」と呼ばれる遠見山、権現山、米田富士(愛宕山)、鬼飛山、大谷山、八坂山、納古山の7つの山が、登山を楽しむ人たちから「川辺セブンマウンテン」と注目され、近年登山者が急増しているそうです。今回は、桃太郎伝説 *1 が残る「鬼飛山」を整備している3名にお話を伺いました。

*1 : 川辺町の桃太郎伝説
かつて鬼飛山には鬼が住んでおり、夜になると村に出てきて若い娘がさらわれていました。その話を聞きつけた桃太郎が飛騨川を下ってきて、雉・犬・猿を集めて鬼退治に向かいました。鬼は桃太郎たちがあまりに強いので、びっくりして飛んで逃げたそうです。これが「鬼飛山」と呼ばれる由縁です。鬼が川底の岩を金棒で突いた時に穴があき、金棒のイボが取れた事によりイボ取りに効くと云われてきた「イボ井戸」や、金棒を引きずったような溝がある「鬼淵」、連れ去られた娘たちが泣きながら歩いた「夜泣き坂」、その他にも「木知洞(こちぼら)」「犬塚」「猿ヶ鼻」と今でも桃太郎にまつわる地名が残っています。

PROFILE

渡邉晋睦(わたなべ・のぶよし)さん、則武佳郎(のりたけ・よしろう)さん、柳川桂一(やながわ・けいいち)さん

写真右:渡邉晋睦さん/里山整備団体・ふるさと愛好会会長
写真左:則武佳郎さん/手作り看板・小物製作
写真中央:柳川桂一さん/手作り看板・小物製作

鬼飛山、大谷山、八坂山を整備するボランティア団体・ふるさと愛好会は平成25年(2013年)に発足。現在23名で活動しています。鬼飛山の整備が進む中、「もっと登山が楽しくなるよう整備しよう」と声を上げたのが、則武さんと柳川さん。「桃太郎伝説」にちなんだ手作り看板やオブジェを設置し、エンターテインメント性に富んだ山づくりを行っています。

昔の人にとって、山は財産
薪などの燃料や信仰の対象として生活に密着

川辺町と美濃加茂市の境界にある鬼飛山は、飛騨川や町の街並み、遠くには御嶽山や尾張富士、名古屋の高層ビルを望む絶景を楽しむことができる標高291mの山です。登山口は山楠公園にあります。「隣にある大谷山や八坂山は、小さい頃からよく登ったんだよね。八坂山の御嶽神社、大谷山の秋葉神社では毎年お祭りが行われていたからね。大谷山や八坂山は信仰の山、鬼飛山は子どもながらに登るのがしんどい山という印象だったなぁ」と渡邉さん。

「山は昔の人にとっては財産だったんだよ。ご飯炊くのに薪が必要だったからね。電気もガスもないから、薪や炭が燃料として生活に欠かせなかったの。鬼飛山には、燃料としてとてもよいアベマキがあった。切り株を残しておくだけで新しい木が出てくるから薪がたくさん必要な時代にはよかったの。70~80年前にガスや電気ができて、薪がなくても生活できるようになった。そうすると木を切らなくなるでしょ?それで、木が伸び放題で山が荒れちゃったの。鬼飛山以外のふたつの山は神社のお参りやお祭りで登っていたし、低山だったから整備しやすかったんだよね。鬼飛山は50年前に山火事になって木が燃えちゃったんだけど、手入れをしないまま木々が茂ってきたから、いよいよ整備しないとまずいぞ!となったんです」。

安全に、そして楽しく
多くの人が登りやすいように整備

荒れてしまった山を整備するため、平成25年に「ふるさと愛好会」が発足。「発足当時、地域の人たちが作った道は残っていたけど、長い間使われていなかったから、修繕しないと危ない状態だった。鬼飛山は季節ごとに色んな花が咲くの。安全に登れるようにして、川辺の自然をたくさんの人に見てもらいたいなぁと思ったのも整備するきっかけのひとつだね。ここの植物も、自然も、山ごと守っていきたいという思いから始まった。登山口には山の紹介や見どころ、季節ごとに咲く花がわかるチラシを入れる情報ボックスも作ったよ。家を建てる時に出る廃材をもらってね。ただ山を歩くのも楽しいんだけど、自然や里山の魅力を知ってほしいからね」と則武さんと柳川さんが相談しながら整備を始めた頃の事を教えてくれました。

山の整備は、登りやすいように階段を作る以外にも、木の様子を観察して安全を確保する役割も担っています。「ある時、松くい虫で松が枯れていることが分かったの。倒れてくると危ないので、森林組合の人にお願いして切ってもらったんだ。木の状態を見て、伐採するのも整備のひとつやね」。

各種ボランティア団体も
一丸となって整備

ふるさと愛好会を中心に、森林組合や異業の会、ライオンズクラブ、地域の若い人たちがボランティアとして協力して整備しているそうです。「ライオンズクラブは年に1~2回整備に来てくれるし、役場の人たちが熱心に働きかけてくれて若い人たちにも協力してもらえるようになってきた。若い人が30~40人集まれば一度に大きな仕事ができるから、ありがたいよね。階段を作ったり、アジサイの手入れをしたり、その都度必要な整備をしてもらっています」と渡邉さん。

自然のままの風景を守る。ふるさとを守る
それがふるさと愛好会の試み

則武さんと柳川さんは、植物観察会や自然と歴史を見て歩く会などにも参加しています。自然はみんなで守っていかなくてはならない。そんな思いから、立ち入り禁止の看板は敢えて設置していないそうです。山道の横に、石を積んで囲いがしてある場所がありました。「ここにフモトスミレが咲くんです。葉っぱに少し違う色(フ)が入る珍しいスミレなの。春になると紫色の花が咲くんだけど、イノシシが通ったり、人に踏みつけられたりして減ってしまった。だからね、足を踏み入れないように石で囲いをして守っているの。そうしたら、登山する人たちが気にしてくれて『ここにもスミレがあるね』って石を置いてくれて、保護するための石の囲いがどんどん伸びていったの。立ち入り禁止にしているわけじゃないんだけど、ちゃんと私たちの想いを受け止めて、一緒に守ろうとしてくれるのがうれしいね」と則武さん。「頂上近くにイワカガミの群生地があるのも自慢でね。特に白い花が咲く『ナンカイワカガミ』という品種は、4月中旬に北側斜面に咲く様は見応えがありますよ。間近で見られるよう整備してあるから、春になったら多くの人に見に来てほしいね」。

ちょっとしたハイキング感覚で到着する
「ちびっこ見晴らし台」製作の想い

登山口からなだらかな山道を登ると『ちびっこ見晴らし台』『大人の見晴らし台』の分岐があります。「さっき話していた、松くい虫の被害から松を切った場所に、ちょっとした休憩場所になる広場『ちびっこ見晴らし台』を最近作ったの。このぐらいの標高でも眺望は楽しめるんですよ」と則武さん。「頂上だけじゃなくここにもイワカガミが咲くんです。小さな子どもやおじいちゃん、おばあちゃんでも、この高さまでなら登れるだろうから、見に来てくれたらうれしいね」。

子どものイマジネーションを掻き立てる
きっかけ作りと遊び心

『ちびっこ見晴らし台』には、木で作ったシカやどんぐりを添えたうさぎ、フクロウやタヌキなど色んな動物や鬼が岩の陰や木の枝で見守っています。「なんかおる!あ、かわいい鬼だった!なんて子どもたちが楽しんでくれるといいなぁと思って作ったの。こういうアイデアを思いつくのは柳川さんが得意なんだよね」。ある一角には、洞穴のようなものがあります。「『休んでいます。そーっとしておいてね。』って看板をつけたの。誰が休んでいるのか、文字では書かないよ。『なんかおるぜ』って子どもたちが想像してくれたらいいなぁと思ってね」と柳川さんのアイデアが冴えます。気づかずに通り過ぎてしまいそうな洞穴を、看板をつけることで子どもたちの想像力を刺激しているのです。

桃太郎伝説になぞらえた登山道整備は
ひとつの鬼瓦から始まった

第一見晴らし台と第二見晴らし台の間には、大きな岩に鬼瓦が置いてあります。「ここから先は鬼の領域。悪いことをしたら、帰って来れへんで~っていうストーリーにしたの。これも遊び心やけど、ここまで鬼瓦を運ぶのは大変だったわ」と柳川さん。鬼瓦を置いて「鬼の領域」を作ったことが、桃太郎伝説をモチーフにした山づくりの始まりだったのだとか。「鬼退治の伝説が残る山ならではの楽しみ方があるんじゃないかと思って、3年ぐらい前から始めたの。それ以来、廃材を集めてちょこちょこやっています。子どもたちが楽しく登れるようにしたいからね。鬼の領域を作るなら、案内の掲示板や標識もいるんじゃないかって、どんどんアイデアが広がっていったのよ」と則武さん。看板の文字や絵は主に則武さん夫婦が書いたものだとか。

道中には大きな岩がスッパリ切られたような大きな岩があり、「一刀石」という看板と手作りの長い刀・鬼のオブジェがありました。「この石ね、桃太郎が刀で切ったみたいだなぁって思ったの。名付けて『一刀石』。節と節の間が80センチくらいある珍しい竹を見つけて『これを鬼退治に使った刀を納める鞘にして、一刀石の隣に置いてみよう!』って作ってみたら、子どもたちから大人気のスポットになったよ。刀を振りかざして写真を撮るSNS映えするスポットやね。近々、川辺の小学生がここを登るんだけど、みんなどんな反応をしてくれるかなぁ」と柳川さんは顔をほころばせます。

春には白い花が咲くイワカガミ

町内外から山を登りに来てくれる人が増え
子どもたちが楽しんでいる声も届く

登山者が花や眺望、看板をSNSで紹介し、それを見て登ってくれる人が県内外で増えているそうです。地元では、小学校低学年の子供たちが約7年前から比較的低い大谷山・八坂山に登るという試みを始めました。今年初めて、小学校3年生が鬼飛山に挑戦しました。「これから鬼飛山登山も恒例になるとうれしいなと思っています。登山は体力づくりにもなるし、景色や自然に触れるいい機会だから、子どもに経験させたいよね。大人になってから『あの山、小さい頃に登ったなぁ。久しぶりに登ってみようかな』って思ってもらえたらうれしいね。その気持ちの延長で『思い出の山・自然を守りたい』と思ってくれたら」と渡邉さん。

登りやすいようにとつけた階段も、人工的に作りすぎないのが鬼飛山の整備の特徴のひとつ。つまさきから足をつくと滑らない、山道は大股より小股で歩いた方が歩きやすい、こういう歩き方をすると転ばない…など、自然の中でしか学べないことを子どもの頃から身体で知ってもらいたいというのも狙いのひとつなのだそう。階段も看板も残されている木々も、すべてに整備する方たちの想いが込められています。

地域の人たちの想いや歴史ごと、自然のままの風景を守る。それが、ふるさとを守ることに繋がっているのでしょう。ふるさと愛好会や手作り看板・小物製作のみなさん、森林組合、様々な団体が協力し合って鬼飛山を守っているのです。

WRITER

吉満 智子(よしみつ・ともこ)/ ライター

愛知県出身、岐阜県御嵩町在住。結婚式場と人をつなぐ仕事をメインに活動中。「ご縁を結ぶ」様々なかたちを目の当たりにし、その根っこにある「人を大切にする想い」の普遍性にしみじみする日々。御嵩に移り住んで感動したのは、徒歩圏内に蛍が飛び交うさまを見られ場所があるということ。守るべきものは、今この瞬間だと実感。

文: 吉満 智子(o-hana)、写真:黒元 雅史(STUDIO crossing)

Posted: 2024.01.27

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