千年後も変わらない里山のある暮らし。持続可能な未来を考える

【美濃加茂健康の森・ぶらり散歩】

森の案内人が語る
「森はこう見ると楽しくなる」

Posted: 2021.11.26

REPORT

日本列島の真ん中付近に位置する岐阜県。生い茂る樹木の種類は実に豊富です。寒い北海道で育つ樹木も、暖かい九州で育つ樹木も、標高や日当たりのよさなどの条件次第で元気に生きられるため、岐阜は「日本の縮図」とも言われています。

この日訪れたのは、美濃加茂市の北部山之上地区に位置し、豊かな自然と緑に恵まれた風光明媚な「みのかも健康の森」。半日かけてたっぷり散策しながら、知っているようで知らない樹木の魅力を「森の案内人」こと三浦豊さんに教えてもらいました。

PROFILE

三浦 豊(みうら・ゆたか)さん

京都在住の「森の案内人」。建築を学び、居心地のよい空間づくりを求めた結果、「庭があることで風が抜け、よりよい住環境になる」と気づき、庭師となる。自然の樹木を知るために17年前に森を歩きはじめ、5年かけて1人で日本中の森を制覇。森の魅力を伝えるため、12年前に「森の案内人」という生業に。現在はオンラインサロンを通じて森の魅力を発信中。

10月末。この日は前日に降った雨のおかげで、木々の葉がより鮮やかに、光り輝いていました。澄んだ空気と青空、そして目の前に広がる山々…。とても気持ちのよいウォーキング日和です。

木の実はなぜ赤いのか。生き残っていくのに大切な理由があるのです。

人それぞれにキャラがあるように、
木にもそれぞれキャラがある

「木の遺伝子は、40%人間と同じなんですよ。そして人とは違い、一度根を張ったら動くことなく一生を全うする。それってすごいことですよね。そういうことを感じるのに、ここ『みのかも健康の森』はとっても魅力的な場所なんですよ。今日は『木を観察するのって楽しいな』ということを感じてもらえたらうれしいです」と三浦さん。
出発して一歩も歩かない場所で、早速、魅力的な木々を見つけました。

「みのかも健康の森」は四季折々の景色を感じながら森林浴や林内散策を楽しめるスポット。

「これは、メタセコイヤという名前の木です。葉がトゲトゲの針葉落葉樹ですね。針葉樹は北の寒いところがルーツなので、上からではなく真横から太陽を受けるんです。だから、どの葉にも太陽が当たるように縦にとがっているんですよ。そしてお隣のクスノキ(楠)は広葉常緑樹。常緑樹は葉が丈夫で、コーティングされているようにテカテカ光っているのが特徴です。クスノキは漢字(楠)でわかるように暖かい南で育つ木なんですよ。岐阜県内でも、美濃がギリギリで飛騨地方になると見かけません」。寒いところがルーツの木と、暖かいところで育つ木が並んでいる。その希少さを散策するまでもなく目の前に広がっている光景が、森の案内ツアーの始まりでした。

「アキニレ」紅葉している葉と青々としている葉。同じ木でも紅葉するタイミングが違うのは、木にも「個性」があるからです。

「秋になると色づく紅葉ってね、葉が落ちる前の生理現象なんですよ」。
例えば、アキニレの木。秋になると実をつける木で、赤く紅葉します。この日も、ある木は赤く色づいている一方で、隣の木はまだ青々とした緑。これはずばり個性なのだそう。
「早々に紅葉する木、まだまだ葉を落とすつもりはないよ!と青々としている木。せっかちさんとのんびりさん、このふたつの木の子どもができると、ふたつの遺伝情報を持ったジュニアが誕生するので親の倍のポテンシャルを持つことになるんです。より多くの遺伝情報を後世に残していくことが生き残るための勝負所なので、キャラが立っていることはとても大事なのです。人と同じですよね」。

「この葉はどうしてこんな形になっているんだろう?」。そんな素朴な疑問が、木に興味を持つことの第一歩に。

細かく切り込みが入った葉は、風を通すことで大きく揺れ、二酸化炭素を吸収しやすくしている。

木の実ってなんのため?生存し続けるための知恵

木を間近で眺めてみると、葉の形や枝のつき方など、実に個性豊か。それにはすべて理由があります。
「タラノキは、小さい葉っぱがたくさんついているように見えるのですが、実は1枚の葉に切り込みが入っているのです。この切り込み部分に風が通ることでたくさん揺れ、二酸化炭素をたくさん取り込むことができる。つまり、光合成が活発になるのです。ただね、タラノキは木の中では寿命が短く30年ぐらい。私は生き急ぎ系ととらえています・笑」。
人に置き換える三浦さんの愛情たっぷりの説明で、木がグンと身近に感じられました。

木の実には、赤いものが比較的多いのにも理由がありました。
「緑の木々に赤の実って映えますよね?それは鳥にとっても同じ。鳥に見つけてもらうために、木は赤い実をつけるのです。そして、美味しいく甘く作ることも大切。種ごと美味しく食べてもらい、遠くで排泄することで子孫を増やしていくのです。ヤマボウシはバナナやマンゴーのように甘く、赤い実がツルっとしていて、作りこみは高級和菓子並。実を大きくすることでヒヨドリやカラスなど大きめの鳥に食べてもらえる。より遠くに運んでもらえるように、ターゲットを絞って実を作っているんですよ」。

葉に種をくっつけて、葉を翼のようにくるくる回しながら飛んでいくケヤキのような木もあります。川沿いに生息する木が多く、運がよければ川に落ちて、流れに運んでもらえるという作戦。ひとつずつ丁寧に実を作って遠くへ運んでもらうのか、軽いものを大量生産して、近くでたくさん根付かせるのか、というのも木ごとの個性なのです。
種がどんな風についているのか、実の大きさや鮮やかさでどんな風に生き残ろうとしているのか。そういう着眼点で木を眺めてみるというのもまた一興ですね。

人が植えたもの(=林)と、自然に盛り上がったもの(=森)。その違いを、目で見て知ることができます。

森と林と公園と。
「盛り上がる・囃し立てる・身体を動かす」

諸説ある森と林の違いについて、三浦さんの見解をお聞きしました。
「林」-人が植えて「生やした」 もの。
「森」-木が自然に生え、盛り上がったように見えるもの。
つまり、人の手が入っているのが「林」で自然に生えているのが「森」ということ。
「人が生えろ!生えろ!と、木を植えたのが林。祭りの『お囃子』や『囃し立てる』ことにも繋がっているんです。ヒノキのように育てたい木をまとめて植えているのが林。

もうひとつ、公園は運動を目的とした健康を促す空間ですね。公園では、生い茂る木は障害物になるので、暗いところの枝を切るなどの手入れが必要となります。山の中に森があり、林があり、公園がある。人の手で整えられた里山ならではの自然環境が残っている『みのかも健康の森』は、本当におもしろいところですね」。

初夏にはアジサイが満開。

蓮の花も美しく咲きます。蓮は1つだけピンクの花を咲かせるのだとか。

生えている木で「土」がわかる

木で土がわかる。それは、木それぞれに個性があるからです。
「みのかも健康の森」にあるどんぐりパークには、どんぐりの実をつけるシイノキやアラカシがあり、秋になると子どもたちが大喜びでどんぐり拾いをしています。中でもシイノキのどんぐりは生のまま食べられるうえ、甘く、ナッツのように栄養価が高い。

栄養価の高いどんぐり。毎年実らせるためには、たくさんのエネルギーが必要になります。

「栄養価の高いどんぐりをこれだけ毎年たくさん生み出すには、多くのエネルギーが必要。つまり、土が肥えているところでしか生き続けられません。落ち葉が溜まり、土が肥えている場所。ずっと森であり続けたところにシイノキはあります」。

木の根元に0才のアカマツやヒノキを発見!世代交代がうまくいっている証であり、未来の森を知ることができます。

一方で、落ち葉が溜まらない急斜面や岩場などの場所を好む樹木がヒノキやアカマツ・ネズミサシ。エネルギーに満ちているシイノキが育たない環境だからこそ生きられる。いわゆる『適地生存』しているわけですね。どんぐりパークのシイノキの隣にある斜面には、ヒノキやアカマツが育っていて、さらにその根元には赤ちゃんヒノキ&アカマツを見ることができます。世代交代がうまくいっているので、未来の森も安泰。ぜひ見つけてくださいね」。

マツとカシノキの姿で知る、森の生きる力

落ち葉が溜まらず、栄養がない急斜面や崖だからこそ生きられる樹木のひとつ・マツ。

樹木の面白さ。それは、木に意思があるかのような【生きる力】を感じられるところにあります。「例えば、木が成長してきて枝が伸びると、下の方の枝には日が当たりにくくなります。そうすると、暗いところの枝を自ら枯らすことで光合成した栄養のムダ使いを防いでいるんですよ。枝が自在に伸びていくけれど決して大きくならない『ウメモドキ』は、バランス感覚がピカイチ。明るいところが好きで、光が当たるところにどんどん枝を伸ばしていくのですが、ちゃんと重心を考えて伸ばしていくので、バランスを崩して倒れることがない。すごい精度です。省エネしながら、生き続けるためにバランスを取る。人間のように自由に動くことができないけれど、今この場所で生き抜いていくぞ!という意思を感じるんですよね」。

つつじの小径を抜けて、見晴らしのよい展望台へ。

肥沃な土地でしか育たない木と、栄養がない場所で生き抜くことができる木。樹木は適地生存しています。

山を歩いていくと、ちょっとした土や環境の違いで、育っている樹木がガラッと変わることに気づきます。山の途中の岩場にカキノキを見つけました。これは、おそらく登山者がここで柿を食べて種を捨てたのでしょう。「他に大きな木があるので、上へ伸びても光合成できません。よって、このカキノキはできるだけたくさん日の光を浴びるために、枝を横へ広げているのです。土に栄養がないのでコンパクトですし、実も成りません。なんとか葉だけでも広げて栄養を作ろう。エネルギーの蓄えができたら、いつか花を咲かせたい!それがこのカキノキです。この状態がまさに“ひと花咲かせる”の語源なんですよ」という豆知識も教えてもらいました。

実際に、山頂付近の岩場とふもとでは、マツやヒノキの育ち方が全く違います。
「マツは岩場が得意なので、根や枝ぶりがダイナミックになる一方、山を下っていくと色々な木に負けてしまうので弱々しくまっすぐに伸びていくのです。環境によって姿かたちが変わっていくんですよね。岩場でも、ほんの少しでも落ち葉が溜まる地形があると、そこの土は肥えていきます。そこに人が木を植えるんです。ここにはヒノキが植えられていますね。自然にヒノキが群生することはないので、人が植えたものだとわかります。アラカシも近くに育ってきていますが、このまま行くとアラカシがヒノキに勝ってしまうので、ヒノキを育てるために手入れが必要になる。木の個性を熟知したうえで、どう木を育てていくのか。それが大変でもあり、面白いところでもあります」。どちらの木に感情移入するのかによって、山の見え方は変わりますね。

思いがけない出会いもありました。
「谷あいや渓谷にいる、水がないと生きられないマルバノキがここにいるんですよ。山にいるはずのない木がいるんです。それが自然のおもしろいところ。ここはよく霧が発生するようですし、もしかしたら水脈が通っているのかな?ハートの葉でかわいいですよね。紅葉がすごくきれいなんです」。

急斜面にコノテガシワやシイノキが育っているところもありました。
「落ち葉が溜まらない急斜面にこれらの木が育っているということは、もともと土が肥沃であるという証。長い年月、人の手が入らず森であり続けてきたといえます。もしかしたらこの場所は、神社とか、木を切ってはいけない場所だったのかもしれませんね」。

身近な自然を満喫できる「みのかも健康の森」

歩道沿いの木について教えてもらいながらゆっくり歩き、標高342mの展望台へと進むルートで約4時間。128ヘクタールの園内には、季節の木々を眺められる歩道が整備されているので、安全に楽しく森林浴やお散歩を楽しむことができます。

自家製のしいたけの佃煮や梅干しなどのおにぎりなどの軽食が「みのかもりのいえ」(管理棟)で購入できるので、手ぶらで出かけられる手軽さも魅力。ローラー滑り台や遊具、パターゴルフやBBQなど、楽しいことが盛りだくさんの「みのかも健康の森」。楽しむ合間のほんのひと時、木に目を向けてもらえたら。今ある場所で、これから先も生き続けるために、姿かたちを変えていく。そんな樹木の生命力に触れることで、明日を生きるパワーをもらえるような気がします。
ぜひご家族で、お友だちと、お出かけください。

みのかも健康の森

美濃加茂市北部の里山の中にあり、美濃加茂の「市の花」あじさい をはじめ、野鳥や季節の草花を楽しむことができる自然豊かな森林公園。園内には約6000株のあじさいが植えられ、初夏に咲き誇る姿が美しい。登山道も整備されており、季節ごとに移り変わる里山の自然風景を楽しむことができます。バーベキュー広場やアスレチックなどの遊具もあり、緑の中でご家族やお友達と楽しいひと時を過ごすことができます。

※登山道は初級〜上級コースまで様々なルートがあります。ウォーキングに適した靴や服装でご利用ください。

みのかも健康の森ホームページ

Instagramでもみのかも健康の森の情報を見ることができます。

この事業は「令和3年度岐阜県清流の国ぎふ推進補助金」を受けています

WRITER

吉満 智子(よしみつ・ともこ)/ ライター

愛知県出身、岐阜県御嵩町在住。結婚式場と人をつなぐ仕事をメインに活動中。「ご縁を結ぶ」様々なかたちを目の当たりにし、その根っこにある「人を大切にする想い」の普遍性にしみじみする日々。御嵩に移り住んで感動したのは、徒歩圏内に蛍が飛び交うさまを見られ場所があるということ。守るべきものは、今この瞬間だと実感。

文: 吉満 智子(o-hana)、写真:黒元 雅史(STUDIO crossing)

Posted: 2021.11.26

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