千年後も変わらない里山のある暮らし。持続可能な未来を考える

【料理家・minokamo の里山ごはんコラム】

秋の実り、栗おこわから学ぶ
暮らしと知恵「伊深ごはん研究会」

Posted: 2021.11.01

COLUMN

伊深ごはん研究会の皆さんとminokamo

PROFILE

伊深ごはん研究会

美濃加茂市伊深町を拠点に、郷土食を伝えたり、旬の料理を提案している有志の会。
お月見会や学童保育など、町の行事にも積極的に参加し、料理を伝え振舞っている。できた野菜や知恵もおすそ分けしあう仲良しで元気なグループ。

里山の秋の実りのひとつ、栗。栗おこわを学びに伺うと「美味しい」の中には毎年作られてきたお母さんたちの知恵が詰まっていて、少し昔の暮らしも知ることができました。この日訪れたのは、美濃加茂市伊深町にある伊深交流センター。田園が広がり、その先には山々があり、どこを見渡しても美しい景色。

ここ伊深町には、有志の女性たちによる「伊深ごはん研究会」があり、この地の郷土食や旬の食材を使った料理を伝える活動をしています。メンバーは60〜70代(2021年現在)の伊深で生まれ育った方、中には島根県など他県から嫁いできた方もいます。私が同研究会に出会ったのは、数年前の伊深町お月見会。この会で、伊深に伝わる里芋などをお供えする十五夜飾を用意したり、月見汁を一緒に作らせていただきました。長年にわたり、毎年行われている行事なのに初めて知ることばかり。みなさんが継承されているお陰で知ることができ、伝え手の大切さを改めて実感。みんなで作り、頂くお月見汁がとても美味しかったです。

今日は、そんな「伊深ごはん研究会」の皆さんにお料理を教わります!

「栗おこわ」と「けんちん汁」

栗おこわの材料。炊飯器は使わず、蒸しあげて作ります。

今回作っていただくのは「栗おこわ」と「けんちん汁」。
まずは栗おこわの材料を紹介します。

前夜から8時間以上水につけておいた餅米、栗、塩と水。

リーダー井上さんの話をメモ

毎年沢山作られる栗の渋皮煮。ぷっくり、立派!

「栗は良い栗といまいちな栗があってね、丸くて大きい良い栗は渋皮煮にするんです。作る過程で皮が破けた栗は、冷凍して正月の甘煮や栗きんとんにしたりね。小さな栗や虫が食った栗は、栗ごはんにするんです。」
こうして秋の実りは、それぞれ美味しい方法でいただきます。

子供の頃の話を教えていただきながら栗剥き

さて、栗の皮剥きの始まり。これが少し手間なのですが、大勢で剥くと、ゆっくり話す楽しい時間でもあります。硬い鬼皮を剥きやすいように、水につけたり少し茹でて柔らかくしないかお尋ねしたところ「いつも拾ってきたその日に剥くから水につけなくても皮が剥けるんですよ」と。なるほど!

その日に取れた栗は、皮も剥きやすい。渋皮を少し残すのも、おこわを美味しくするポイント。

渋皮剥きにもコツがあります「渋皮が少しが残ってた方がおいしいの。ちょっと残っとるくらいの方がごはんに色はつくけど、風味がするなと思います。」剥いた栗は、もち米を蒸すまで水につけておきます。おこわでなく、うるち米で作る方もいますし、昔は栗がない時にさつま芋で作ることもあったそう。

皆さん手慣れた手つき

栗の保存とおやつを兼ねた「かち栗」と正月の暮らし

「昔は栗を蒸したり煮たりしてからね、木綿の糸に通して数珠のようにして干し柿を干すような場所に吊るして『かち栗』を作ったの。皮を剥いて口に入れると、ほんのり甘みが出てくるんですよ」

そうそう、私の祖母(加茂郡七宗町)も、栗を干してぶら下げていた景色を思い出しました。様々なおやつが豊富に手に入る今だからこそ、昔ながらの栗の甘味を、ゆっくり味わってみたいです。かち栗の他、干し芋、干し柿、漬物を作ったり、秋は収穫と同時に冬に備えての蓄えが必要なため忙しいのです。栗からお正月の話へ。かち栗は年神様の御膳に半紙を敷いて裏白をのせ、黒豆、こぶ、たつくりなどと、その年の恵方位に年神様にお供えし、元旦にはそれを年長者からいただきます。これは今でもされてるそうで、改めて取材したいものです。

餅米と剥き栗を混ぜてから蒸します。

たくさんあった栗ですが、皆んなで楽しく話をしながら作業するうち、あっという間に皮が剥けました。剥いた栗は食べやすい大きさに切り(小さい栗なら半分)、蒸し器にあらかじめ入れておいた餅米に混ぜます。

ここから蒸すこと1升だと45分、2升だと60分が目安。さて、栗おこわの出来上がりを楽しみにしつつ、けんちん汁に取り掛かります。

その時あるもので作る、おかずになるけんちん汁

この日のけんちん汁の材料。茄子、里芋が入るのが秋らしい。

今回の材料は、にぼし、玉ねぎ、ごぼう、油揚げ、茄子、干し椎茸、人参など。けんちん汁に、玉ねぎや茄子を入れるのは初めてで驚きましたが、元々はその時あるものを入れて作るもの。一年中食べるというより秋と冬に食べることが多いそう、具沢山の汁は体も温まります。

「けんちん汁というのは冬で、秋は名前のない汁でしたね(笑)野菜を入れた汁とか、具沢山汁とか。里芋が収穫できたら里芋だし、ない時はじゃが芋にしたりね。その時あるものを入れておかず代わりにするんですよ」

お出汁はにぼし。岐阜といえば山に囲まれている立地から、椎茸出汁が定番のように思っていましたが、当時は年中採れるものではありませんでした。福井県から来ていた行商から、煮干しや昆布を購入し、日常の出汁は煮干しを使うことが多かったのです。

伊深ごはん研究会のみなさんが、学童保育でけんちん汁を作った時には「煮干しが入ってるとあたりですよ言うと『はい!僕んとこ煮干しが入ってた』なんて手をあげた子もいるんですよ(笑)」と嬉しそうに話してらっしゃいました。

途中で醤油を入れて、具に火が通ったら出来上がり。買いに行かなくても、その時々で手に入る、旬の食材をどんどん大鍋に入れて、ご馳走ができるのですから素晴らしい汁ですね。

具沢山の汁はおかずにもなります。

ごぼうや野菜の良い香り!

栗おこわも完成!

栗おこわを蒸して45分経ち、台所が良い香りで満ちています。祖母も作ってくれたことを思いだす懐かしい香り。

蒸して45分たちました。塩水(しと)を入れて混ぜ、再度15分蒸します。

蒸し器から一度ボウル(本当はおひつ)に裏返して移し替え、「しと」と呼ばれているお茶碗1杯の水と塩大さじ2を混ぜたものを、おこわに入れまぜます。

「こうしてね、塩味が少しついていると美味しいんですよ」そして再度、蒸し器で15分蒸して出来上がり。手際よくお茶碗に盛り、けんちん汁もよそいます。

炊き上がった栗おこわ。これは美味しそう!

秋のご馳走

こうしてお茶碗が並んだ光景を見て、子供の頃に親戚が集まってご飯を囲んだことを思い出しました。自宅なら炊けたら一番に「ののさま(ご先祖様)」にお供えします。

卓上に勢ぞろいしたところで、皆さんで手を合わせて「いただきます!」

皆さんでいただくと、より美味しい!

栗おこわ、けんちん汁、無花果の梅シロップ煮(メンバーの方が作って来てくれた)。秋のご馳走定食。

程よい塩味に栗の甘み、口の中が秋の風味で満たされる美味しさです。「けんちん汁も良かったらお代わりしてくだいね」と、取材に伺ったのに、祖母の家に来たような温かさ。お代わりもすすみつつ、みなさんに子供の頃の里山の思い出を伺いました。

「松葉がき、と言ってね、松の木や枯れた松葉を拾って、お竈(かまど)の燃料にしたんですよ。今はね、燃料も必要なくなり雑木林の手入れはしなくなったんですね」少し昔までは、日常生活と里山はもっと身近な関係だったのですね。

伊深ごはん研究会の皆さんが伝えられている風習、これからもっと教えていただきたいです。

「栗おこわ」のつくりかた

材料
もち米:1升
栗:適量(20~30個くらい)
しと:水お茶碗1杯と、塩大さじ2を混ぜておく

① もち米は、さっと研いだら前夜から8時間水につけておく。翌朝ザルにあげる。
② 栗は渋皮を少し残しながら、皮を剥き15分ほど水につけておき、ザルにあけ食べやすい大きさにカットし、もち米と混ぜ45分蒸す。
③ ②をおひつに全てあけ、しと(塩水)を混ぜ、再度15分蒸したら出来上がり。

WRITER

minokamo(みのかも)

料理家、写真家、フードコーディネーター。岐阜県美濃加茂市出身。加茂郡七宗町神淵で祖母と料理したことが、料理家になったきっかけ。故郷の名を借り、地域の食を活かした提案、郷土食の取材や現代に作りやすい料理にアレンジも得意とし、執筆も手がける。日常の食を豊かにする器使いも各媒体で提案している。祖母が暮らしていた「神渕の家」を譲り受け、料理スタジオとしてイベント等も開催している。 連載/岐阜新聞「毎日ごはん」、PAPERSKYSKYサイトjapanese Local Cuisine 著書/「料理旅から、ただいま」(風土社)「ふるさと雑穀のっけごはん」(みらい出版)

文: 長尾明子(minokamo)、写真:黒元 雅史(STUDIO crossing)

Posted: 2021.11.01

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